大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山家庭裁判所 昭和44年(少)1515号 決定 1969年7月17日

少年 G・M(昭二四・七・一九生)

主文

少年を岡山保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は他数一〇名と共謀のうえ昭和四四年四月○○日午前五時三五分頃から同六時五分頃までの間岡山市○○△△大学学生部南側の通称△大東門附近において、暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件等につき、同大学構内に立入、捜索・検証を行なうため同所に赴いた警察部隊の第四中隊(中隊長○瀬万○雄警部以下一〇七名)第二中隊(中隊長○田○男警部以下一〇九名)第五中隊(中隊長○口○二警部以下七二名)所属の警察官らに対し多数の石、コンクリート塊等を投げつけて暴行を加え、その職務の執行を妨害し、その際右暴行により、第二中隊所属の有○宏巡査に対して脳幹部損傷、右急性硬膜外血腫、右側頭骨陥没骨折、右側頭部挫傷の傷害を与え、同日午後八時四〇分頃同市○○○△△△病院において死亡するに至らしめたほか、別表記載どおり前記○瀬万○雄警部ほか五六名の警察官に対しそれぞれ同表記載どおりの傷害を負わせたものである。

(保護処分の理由)

少年の素質環境(詳細は当庁調査官作成の少年調査票記載のとおり)、年齢、本件非行事実の罪質等に照らし、不処分決定、保護観察決定または検察官送致決定以外の処分は明らかに妥当性を欠くか、または取りえない。よつて右決定中のいずれを採用すべきかを案ずるに、本件記録によれば、

一、少年は健全なサラリーマン家庭の一人子として生れ、教育熱心な保護者のもとですくすくと生長し小中高校を優れた成績で卒業して△△大学に入り、現在同大学理学部地質学科に在籍する者であるが、知的(IQ一一〇~一二三)にも精神的にも優れこそすれ欠陥はなく、その人柄は温厚で影日なたなく真面目に勉学にいそしんでおり、前科前歴はもとより一度もないこと。

二、少年は、元来いわゆる学生運動にあまり関心を持たなかつたが、今年の一月末の全学ストが行なわれ学園紛争が長期化しだした頃から全学共闘会議の方針に賛同し、学園正常化を目指して、理学部闘争委員会のメンバーに加わつたものの、これと言う程の信念もなく附和随行した類で、やがて同会議の尖鋭的な在り方について行けず、学園運動の表面から離脱し、学園紛争の成行に関心を持ちながら事態を静観していたものであつて、その考え方は、本件の遠因の一つとなつた本年三月○○日の○手教授暴行事件の際学友が同教授に対し暴行を加えるのを阻止しようとしている事からも窺えるごとく、常識の範囲を免脱しておらず、たとえ学園紛争の場であつても暴力行為等の違法行為が必要悪として許されるものでないことを十分承知していること。

三、本件犯行は、たまたま事件当日朝の三時頃下宿で読書中、大学構内からのマイク放送等により学内の異常を知り、かねて噂に聞いていた機動隊の学内捜査が行なわれるのであろうと考え大学に馳けつけたところ、やがて思いもよらぬ多数の機動隊員が来たのを目の前に見て、これが学内に常駐するのではないかと危惧し、常日頃持つている警察アレルギーも手伝い軽卒にもその場にいた学生達と同調して投石を行なつたものであり、事前に謀議に加わつたり、主動的役割を果したりしたわけではないこと。

四、本件犯行時においてもその活動は比較的消極的で投石回数も多くはないこと。

五、事件後、その被害状況を知り余りの大きさに驚くとともに、その際抱いた安易単純な正義感を悔み、大阪の親もとに帰り反省の機会を持つていたもので、将来非合法的な行動をしないよう自粛するとを誓つており、少年の上記態度等に照らし、少年のこの気持に偽りがあるとは認められないこと。

六、逆送処分に付する場合、他の学生らの援助を受け、その義理等のため、かえつてその意に反する再非行に追いやられる可能性がないわけではないこと。

七、実父母が本籍地におり、少年が大阪に帰つている限り、これを保護する必要性は認められないが、いずれみち岡山に帰り学生生活を続けて行くだろうから、その際再び附和雷同して非行に走ることがないよう少年に働きかける必要を認めること

の諸事情を認定することが出来、これらの諸事情および本件罪質等を総合すると、前記各処分中少年を保護観察処分に付し前記七の事態に対処するのを相当と認められるところ、岡山保護観察所においても担当保護司等の点で配慮をする旨解答せられているので主文のとおり決定した次第である。

(適条)

非行事実中 公務執行妨害につき 刑法第九五条第一項、第六〇条

傷害致死につき 同法第二〇五条第一項、第六〇条

傷害につき 同法第二〇四条、第六〇条

保護処分につき少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項。

(裁判官 笠井達也)

(別表編略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例